2023年5月号「かん水について」

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かん水について

・水の重要性

野菜の生育には、水が不可欠です。株や果実の生長・種の生産のために必要な水に加え、風ストレスなどで蒸散する水を、根を通して吸収しています。

土の表面からも水は蒸発していて、土の水は失われます。 フィルムマルチは蒸発を防いでおり、水の有効活用に効果を発揮します。

また、施肥された肥料は土の中の水に溶けて、初めて根から吸収されます。野菜が栄養を補給するためにも水は不可欠なのです。

・水の動き

地床栽培では降雨や土の下層からの水の移動で、 根域の土の水分が補給されており、野菜の吸水量が不足しなければ、私たちがかん水して水を補う必要はありません。

プランター栽培の場合、下層からの水移動による補給がないことに加え、かん水して余った水は流出しますし、プランターの底面部に根が密集して水分ストレスを受けやすい状態にあります。 プランターが大きく土の量が多いほど水は保たれやすいですが、地床栽培に比べて水が不足しやすく、かん水の頻度を高めて土の水を補う必要があります。

・生育とかん水

野菜の吸水量は、天気で大く異なります。晴れた日には蒸散量が多く、多量の水が必要ですが、曇った日には蒸散量が少なく、吸水量は1/6から1/8ほどです。暑い夏には多くの水が必要ですが、寒い冬には少なくてすみます。

また、生育に合わせても増減します。 播種時には、種の周囲の土の水分を保つことが重要で、適度なかん水が必要です。かん水のし過ぎは、酸素不足による種や根の腐敗を招くことがあります。株がまだ小さい生育期の吸水量は少なく、生育が進むにつれて増えます。生育初期の吸水量は一般的に降雨で足りています。

野菜の水分状態は、早朝の観察でわかります。トマトでは茎の先端の中心部分が薄い黄緑色になり、水分量が多いとその範囲が広くなります。逆に水が不足すると、茎の先端が濃緑となります。

果菜類では、定植した苗を活着させるまでかん水が必要です。その後は、栄養生長に傾きすぎないようかん水は控えます。栄養生長に傾きやすいトマトでは、第1果房がピンポン玉ほどの大きさとなって着果負担がかかり始める第3花房の開花始めから定期的なかん水を始めます。かん水量は少なくして水分ストレスを与えて、糖度が高まるように育てす。

ナスでは、生殖生長が始まり吸水量が増える第1果が収穫できるころから、定期的なかん水を始めます。主枝が伸長しながら果実が多く成っている時が吸水量のピークで、主枝が摘芯されると減少し、その後は着果量に比例して増減するので、天気を考慮してかん水量を調節します。

トウモロコシでは、雄花が抽出し始めるころから、雌穂が生長を始めるため、その時期からのかん水が重要です。

・かん水の量

降水量が2㎜というのは、1㎡に2ℓのかん水をしたのと同じです。かん水する場合には、土が十分に湿るよう2m以上のかん水をしましょう。

表に示したように、株が大きくなり、収穫頻度が高い果菜類では、1日当たりの1株の吸水量は2~3ℓで、天気や土の湿り具合に応じてかん水量を調節します。 葉菜類は果菜類に比べて葉面積が小さく、果実などの着果負担がないため、吸水量は1/10以下のイメージです。

・かん水の頻度

土の性質によって土の乾きやすさが異なります。水はけのよい砂土ではかん水の頻度は高く、水持ちの良い粘土質の土壌ではかん水頻度は低くします。

基本的に、降雨後に10日以上の好天が予想される場合、地床栽培の野菜では5日目にはたっぷりとかん水を行いましょう。降雨を含め、定期的に水を与えることが生産の安定につながります。

特に、 果菜類では表のようにかん水の頻度を増やして果実の生長を促します。また、水の代わりに300~500倍に希釈した液肥をかん水することで、栄養生長を促して草勢を維持することは生産面で大変有効です。

・節とかん水の時間帯

野菜が水を必要とするのは、日射量が増える日中です。その時に水が不足しないよう、かん水は朝方に行うのが基本です。ただ、日中に高温となる夏季には、高温で根を傷める可能性が高いため、夕方にたっぷりとかん水します。