2025年9月号「マルチの効果」

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マルチの効果

野菜を栽培する際に畝の表面を覆うことをマルチングといいます。多くは黒のポリフィルムですが、他にも異なる色のフィルムやシルバーのストライプの入ったフィルムマルチがあります。また、わらやもみ殻・堆肥などの有機物で覆うことを有機物マルチといい、それぞれの資材で効果に違いがあります。当JAでの取り扱いは、関係店舗で異なりますので、入手の際には事前に確認ください。

●マルチの特性

①地温の調節

フィルムマルチはマルチがない裸地状態より地温を上昇させますが、フィルムの厚さや種類でその程度は変わります。厚さは0.02㎜が一般的で、0.03㎜のものまで幅があります。マルチの種類で昇温効果の高い順に、透明>緑色>黒色>シルバー>白黒>裸地>有機物の順です。
フィルムマルチに対して有機物マルチは土への光の到達を防ぐことで遮熱するとともに、土が含んでいる水分を空中に気化させて畝の熱を奪うので地温の抑制につながります。

②抑草

雑草の生育に必要な波長の光を抑制することで、雑草の発生を抑制する効果があります。その透過を抑制する程度によって抑草効果に差があり、効果の高い順に白黒=黒色=シルバー>緑色>有機物≫視地=透明の順です。

③土壌水分の保持と肥料成分の流亡を防ぐ

土からの水分の蒸散を遮断することで、畝内の土壌水分を保持させるとともに、地下水の毛管による水分補給効果があります。ただし、野菜が消費する水分は確実にありますので、渇水状態の環境下では毛管現象による補水では足りずに、かん水が必要です。また、降雨による畝内への多量な雨水の流水がおこりにくいため、施肥した肥料成分が地下水へと流亡しにくくなります。これらの程度の違いは、フィルムマルチ≫有機物マルチ>裸地の順です。

④土を柔らかく保つ

土が雨でたたかれて表面が硬くなったり、雨水の流入で物理性が崩れて土がしまって孔隙が減るのを防ぐ効果があり、栽培期間中の土を柔らかく保つことにつながります。その程度の違いは、フィルムマルチ≫有機物マルチ>裸地の順です。

⑤病害の抑制

降雨による土の跳ね返りを防ぐことで、土の中に存在する病原菌などが野菜の傷口などから侵入するのを防ぐ効果があります。その程度の違いは、フィルムマルチ>有機物マルチ≫裸地の順です。

⑥害虫の飛来の抑制

昆虫の中には、野菜の位置を確認して移動する行動のために紫外線を利用しているものがあり、その代表的な害虫がアブラムシです。紫外線を反射することで、飛来の回避につながります。効果があるフィルムマルチには反射マルチやシルバーマルチ、シルバーのストライプの入ったフィルムマルチで、反射する波長域や反射率などによって効果には差があります。

●生分解性マルチ

一般的なフィルムマルチは栽培終了後に片付け作業が必要であり、産業廃棄物として処分する必要があります。

これらのことをしなくても良い便利なマルチが生分解性マルチです。畑にトラクターで野菜と一緒にすき込んでしまえば、微生物が分解してくれて、水と炭酸ガスに戻ります。

使用上の留意点は、土にすき込んだ際に土壌表面に残った部分は分解されないこと、土壌消毒と併用した場合には塩素ガスで急な劣化が起きてしまう場合があることです。現行の市販品には2~3か月で劣化が始まるレギュラータイプと4~5か月で劣化が始まる長期タイプがあり、適切な選択が重要です。保存期間が長期化すると加水分解と劣化が徐々に進んで強度や機能性が低下します。そのためにメーカーによる受注生産の場合が多いことから、必要量のみを使用2~3か月前に発注いただくことが重要です。価格は、通常のフィルムマルチの3~5倍と高価ですが、作業の機械化を図った農家では作業性を優先させることから利用が増えています。種類としては、黒色、透明、緑色、シルバーなどあり、メーカーによる品揃えや性能に違いがあります。

●マルチ資材の使い分け

日本の四季に合わせて、地温をどう制御したいか、その際の雑草の発生をどこまで許容するかなどがマルチ資材選択の判断材料となります。栽培期間が長い場合、栽培上でマルチに最も発揮させたい特性と欠点を天秤にかけて、資材を選定することとなります。そのように判断した事例が、表中の利用場面の例ですので、参考にして使い分けてください。

マルチ資材の特性